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厚生労働省が10月7日に公表した8月速報では、物価の影響を除いた実質賃金が前年同月比1.5%増えました。では、自分の手取りや買える量も1.5%増えたのでしょうか。答えは、そうとは限りません。これは従業員5人以上の事業所を対象にした平均の賃金指数を、特定の消費者物価指数で調整した結果です。自分の改善を確かめるには、平均値を喜ぶだけでなく、給与明細の固定給と労働時間、家計で実際に上がった価格を同じ月どうしで比べる必要があります。
1.5%は「名目3.8%」と「物価2.2%」の間にある
8月の現金給与総額は1人平均31万1,364円で、前年同月比3.8%増でした。実質賃金の計算に使う消費者物価指数は、持家の帰属家賃を除く総合で2.2%上昇しました。賃金の伸びが物価の伸びを上回ったため、実質賃金指数は1.5%増になりました。単純な引き算が1.6ポイントになるのに公表値が1.5%なのは、指数どうしを割って変化率を求め、丸めているためです。
実質賃金は8カ月連続のプラスです。8カ月以上続くのは2016年2月から2017年1月までの12カ月連続以来ですが、今回の伸び率は6月、7月の2%台から縮みました。「プラスが続いた」という方向と、「伸びの勢いは弱まった」という速度は同時に成り立ちます。
31万1,364円は手取り額でも標準月給でもありません。税金や社会保険料を引く前の現金給与総額で、基本給、残業代、賞与などを含む調査産業計の平均です。この金額より多いか少ないかだけで、自分の賃上げが平均以上かを判定することはできません。
平均の中身は固定給、残業、賞与で分ける
比較の軸にしやすいのは、基本給を中心とする所定内給与です。8月は27万7,861円で前年同月比3.8%増でした。残業代に当たる所定外給与は2万497円で5.2%増、賞与など特別に支払われた給与は1万3,006円で前年同月と同水準でした。総額が増えていても、どの部分が増えたかで持続性は違います。
残業時間が増えて総額が上がった人と、同じ時間で基本給が上がった人では、翌月以降の見通しが同じではありません。賞与の支給月がずれただけでも前年同月比は大きく動きます。給与明細では、総支給額だけでなく、基本給、固定手当、時間外手当、賞与、実労働時間を分け、前年8月と同じ項目を比べるのが先です。
雇用形態の平均も一つではありません。一般労働者の現金給与総額は39万9,849円で3.7%増、パートタイム労働者は11万5,905円で4.1%増でした。働く人の構成が変われば全体平均も動くため、全体の3.8%を自分の契約条件へそのまま当てはめることはできません。
物価の平均と、わが家の値上がりも同じではない
実質化に使われる2.2%は、持家の帰属家賃を除く総合指数です。家計がよく買う品目の組み合わせは世帯ごとに違います。食料や光熱費の比重が高い世帯では、総合指数より負担増を強く感じることがあり、反対に値下がりした品目の比重が高ければ平均より改善して見えることもあります。
自分の購買力は、手取りの増減率から自分の支出増減率を機械的に一度引けば完成、というものでもありません。税・社会保険料、家賃更新、ローン金利、家族人数、購入量の変化が重なります。まず前年8月と今年8月の手取りを比べ、次に食料、住居、光熱、交通など固定的な支出を同じ分類で比べると、統計のプラスと生活実感のずれを説明できます。
例えば名目の総支給が3.8%増えても、手取りの伸びがそれより小さく、よく買う品目の価格が2.2%より大きく上がっていれば、自由に使えるお金は増えないことがあります。これは統計が間違っているのではなく、全国平均が一人の家計簿を再現する数字ではないからです。
速報を家計の結論にしない三つの確認
第一に、同じ月の給与明細を二枚並べ、総支給、手取り、所定内給与、時間外手当、労働時間を比べます。昇給と残業増を分ければ、今後も続く増加かを判断しやすくなります。第二に、家計簿やカード明細から毎月避けにくい支出を抜き出し、金額だけでなく購入量や契約変更も確認します。
第三に、8月分は速報であることを残します。毎月勤労統計の指数や前年同月比は、調査事業所の抽出替えなどで過去にさかのぼって改訂されることがあり、実数も訂正される場合があります。家計の予算や賃上げ交渉を一つの速報値だけで決めず、確報と数カ月の所定内給与の動きを続けて見るのが安全です。
今回の数字は、賃金の伸びが平均の物価上昇を上回る状態が続いたという重要な改善です。ただし、8カ月連続という記録は、すべての働く人の生活が8カ月連続で楽になった証明ではありません。平均の転換を、自分の明細と家計を確かめ始める合図として使うほうが実用的です。
プラスのニュースを、自分の二枚の明細で確かめる
実質賃金1.5%増は、賃金が物価に追いつく流れが8月も続いたことを示します。それでも、手取りが一律1.5%増えたという通知ではありません。前年8月と今年8月の給与明細を並べ、固定給と残業を分け、同じ期間の避けにくい支出を重ねる。平均値をこの三つの確認へつなげたとき、明るい統計が自分の生活にも届いているかを、期待だけでも悲観だけでもなく判断できます。
参考資料
- 厚生労働省 · 毎月勤労統計調査 2026年8月分結果速報(2026年10月7日)
- 政府統計の総合窓口 e-Stat · 毎月勤労統計調査 2026年8月速報
- 共同通信 · 実質賃金8カ月連続プラス、8月は1.5%増(2026年10月7日)
- Reuters · Japan's real wages rise for eighth straight month in August(2026年10月7日)
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